Googleが注目した心理的安全性とは?プロジェクト・アリストテレスを解説
心理的安全性という言葉が広く知られるようになったきっかけの一つとして、Googleが行ったチーム研究「プロジェクト・アリストテレス」があります。
Googleは「効果的なチームには、どのような特徴があるのか」を明らかにするため、社内のさまざまなチームを調査しました。
優秀なメンバーを集めれば強いチームになるのか。
同じような性格の人を集めた方がうまくいくのか。
経験豊富なメンバーが多い方が成果を出せるのか。
こうしたチーム構成だけでなく、メンバー同士がどのように働いているのかという「チームの力学」まで幅広く分析したのがプロジェクト・アリストテレスです。
その結果、効果的なチームを考えるうえで重要な要素として最初に挙げられたのが「心理的安全性」でした。
このページでは、Googleのプロジェクト・アリストテレスとはどのような研究だったのか、そこで示された5つの要素とは何か、そして日本の職場やチームづくりにどう活かせるのかをわかりやすく解説します。
Googleのプロジェクト・アリストテレスとは?
プロジェクト・アリストテレスは、Googleが「効果的なチームとはどのようなチームなのか」を調べるために行った社内研究です。
Googleでは、多くの仕事が個人だけではなくチームによって進められています。
そこでGoogleの研究チームは、「どのような条件がチームの成果に影響しているのか」を分析しました。
Googleのre:Workによると、調査対象となったのは180チームで、その内訳はエンジニアリングのプロジェクトチーム115、営業チーム65でした。
チームの人数は3人から50人で、中央値は9人だったとされています。
研究では、メンバーの性格、能力、経験、チーム構成などの要素だけでなく、メンバー同士がどのように関わっているのかというチームの状態についても分析されました。
なぜ「プロジェクト・アリストテレス」という名前なのか
Googleは、この研究を「Project Aristotle(プロジェクト・アリストテレス)」と名付けました。
Googleのre:Workでは、「全体は部分の総和よりも大きい」という考え方にちなんだ名称と説明されています。
一人ひとりの能力だけを見るのではなく、人が集まってどのように関係し、協力するかによってチーム全体の力が変わるという発想です。
これは、心理的安全性を考えるうえでも重要な視点です。
優秀な人を集めただけで、自動的に優秀なチームができるとは限りません。
どれほど能力の高い人が集まっていても、意見を言えない、助けを求められない、失敗を隠す、新しい提案をしないという状態であれば、それぞれの能力を十分に活かせなくなってしまうからです。
Googleが調べたのは「誰がいるか」だけではない
強いチームをつくろうとすると、私たちはつい「どんな人を集めるか」に注目します。
経験豊富な人、頭の回転が速い人、専門知識のある人、コミュニケーション能力が高い人など、優れた人材をそろえることはもちろん重要です。
しかし、プロジェクト・アリストテレスから見えてきたのは、チームの成果を考える際には「誰がいるか」だけではなく、「その人たちがどのように一緒に働いているか」が重要だということでした。
- 意見を安心して言えるか
立場や経験年数に関係なく、疑問や違和感、反対意見を伝えられるかどうかは、チームが持っている情報を活かすうえで重要です。 - 約束したことを実行できるか
一人ひとりが責任を果たし、お互いに仕事を任せられる状態でなければ、チームとして安定した成果を出すことは難しくなります。 - 役割や目標が明確になっているか
自分が何をすべきなのか、チームが何を目指しているのかが分からなければ、優秀なメンバーがいても力を発揮しにくくなります。 - 仕事に意味を感じているか
自分の仕事を大切だと思えることは、チームに関わる姿勢にも影響します。 - 自分たちの仕事が役立っていると感じられるか
チームの活動が会社や顧客、社会などにどのような影響を与えているのかを理解できることも重要です。
Googleが示した効果的なチームの5つの要素
プロジェクト・アリストテレスでは、効果的なチームに重要な要素として、次の5つが示されています。
- 1.心理的安全性(Psychological Safety)
対人関係上のリスクを取っても大丈夫だと感じられる状態です。質問、相談、失敗の報告、異論、提案などを安心して行えることが重要になります。 - 2.信頼性(Dependability)
メンバーが質の高い仕事を期限内に行い、お互いに任せた仕事をきちんと遂行すると信頼できる状態です。 - 3.構造と明確さ(Structure & Clarity)
役割、計画、目標、意思決定の方法などが明確になっていて、自分が何を期待されているのかを理解できる状態です。 - 4.仕事の意味(Meaning)
仕事そのものや、その成果に対して個人的な意味を感じられる状態です。何に意味を感じるかは人によって異なります。 - 5.インパクト(Impact)
自分たちの仕事が組織の目標や顧客、社会などに貢献していると理解できる状態です。
この中で、Googleが最も重要な要素として挙げたのが心理的安全性でした。
なぜ心理的安全性が最も重要なのか
心理的安全性は、それ単独で成果を生み出す魔法の仕組みではありません。
しかし、チームが持っている知識や能力を発揮するための土台として重要です。
たとえば、専門知識を持った社員がプロジェクトの大きなリスクに気づいたとします。
その人が安心して問題を指摘できれば、チームは早い段階で対策を考えることができます。
一方、「上司の案に反対したら評価を下げられるかもしれない」と考えて黙ってしまえば、その知識はチームに活かされません。
能力があるかどうかだけではなく、その能力をチームの中で安心して発揮できるかどうかが重要なのです。
心理的安全性が低いと起こる「言わない方が安全」という判断
人は職場の中で、周囲からどのように評価されるかを意識しています。
そのため、発言することで自分の評価が下がる可能性があると感じれば、黙っているという選択をすることがあります。
- 質問しない
「そんなことも知らないのか」と思われることを恐れ、分からないことがあっても聞かずに仕事を進めてしまいます。 - ミスを報告しない
「仕事ができないと思われる」「怒られる」と考え、小さな問題を隠した結果、大きなトラブルにつながることがあります。 - 反対意見を言わない
上司や多数派に逆らう人だと思われることを避けるため、本当は疑問があっても同意してしまいます。 - 新しい提案をしない
アイデアを否定されたり笑われたりすることを避けようとして、今まで通りのやり方を選ぶようになります。 - 助けを求めない
「能力が低いと思われたくない」という不安から一人で仕事を抱え込み、問題が深刻になってしまうことがあります。
こうした行動は、本人が怠けているから起きるとは限りません。
その職場では「言わない方が自分を守れる」と学習した結果かもしれないのです。
Googleの研究で心理的安全性はどのように確認されたのか
Googleは、チームの状態を把握するためにメンバーへの質問も活用しました。
心理的安全性については、たとえば「このチームでミスをすると、それを責められることがあるか」「問題や難しい課題を取り上げることができるか」「助けを求めることが難しいか」といった観点からチームの状態を確認しています。
重要なのは、単純に「あなたの会社には心理的安全性がありますか」と聞くのではないことです。
日常の具体的な行動や経験を通して、チームの状態を確認しています。
心理的安全性の作り方教室でも、現在のチームの状態を振り返るための無料自己診断を用意しています。
心理的安全性だけ高ければ強いチームになるわけではない
プロジェクト・アリストテレスについて、「Googleは心理的安全性だけあればチームは成功すると証明した」と理解するのは正確ではありません。
Googleが示した効果的なチームの要素には、心理的安全性以外にも、信頼性、構造と明確さ、仕事の意味、インパクトがあります。
これは実際の職場を考えると分かりやすいでしょう。
どれだけ何でも話せるチームでも、誰も約束した仕事をしなければ成果は出ません。
人間関係が良くても、目標や役割が分からなければ仕事は進みません。
心理的安全性は「成果への厳しさをなくすもの」ではなく、チームが持つ力を発揮しやすくするための重要な土台として考えることが大切です。
心理的安全性=仲良しではない
Googleの研究をきっかけに心理的安全性という言葉が広く知られるようになる一方、「心理的安全性の高い会社=みんな仲良く、誰にも厳しいことを言わない会社」という誤解も生まれています。
しかし、心理的安全性の高いチームでは、意見の対立がなくなるわけではありません。
むしろ、本音で意見を言えるからこそ議論が起きることがあります。
重要なのは、意見に反対されたことと、自分自身を否定されたことを分けられる関係です。
「その案には反対です」と言われても、人間関係そのものが壊れるわけではない。
そのような関係があるからこそ、仕事について率直に話し合うことができます。
この点については、心理的安全性は「ぬるま湯」ではない|よくある勘違い・誤解でも詳しく解説しています。
プロジェクト・アリストテレスから日本企業が学べること
Googleと自社では、会社の規模も業種も社員も違います。
そのため、Googleで有効だった仕組みをそのまま導入すれば、すべての会社で同じ結果になるわけではありません。
それでも、プロジェクト・アリストテレスから学べる重要な視点があります。
人材だけでなく「関係性」を見る
チームの問題が起きると、「もっと優秀な人が必要だ」「あの社員の能力が低い」と個人に原因を求めてしまうことがあります。
しかし、同じ人でもチームが変われば発言量や行動が大きく変わることがあります。
人だけを見るのではなく、その人が能力を発揮できる関係性になっているかを見ることが重要です。
発言しない理由を本人の性格だけで判断しない
会議で何も言わない社員を見て、「主体性がない」「積極性がない」と判断することがあります。
しかし過去に発言した際、上司に強く否定されたり、周囲から笑われたりした経験があれば、発言を控えるのは自然な反応かもしれません。
「なぜ言わないのか」だけではなく、「このチームは言える環境になっているか」という視点を持つ必要があります。
チーム単位で状態を確認する
心理的安全性は会社全体で一律とは限りません。
同じ会社でも、ある部署では自由に意見を言えるのに、別の部署では上司の顔色を見ながら仕事をしていることがあります。
そのため、会社全体の平均だけを見るのではなく、実際に一緒に仕事をしているチーム単位で状態を確認することが重要です。
診断して終わらず対話につなげる
Googleはチームの状態を把握するための調査結果を、チーム内での話し合いや改善にも活用しました。
心理的安全性のアンケートも、点数を付けてランキングするためではなく、「なぜこの結果になったのか」「何を変えればよいか」を考えるきっかけとして使うことが大切です。
心理的安全性を高めるためにリーダーができること
心理的安全性はメンバー全員でつくるものですが、リーダーの言動はチームに大きな影響を与えます。
- 自分にも分からないことがあると認める
上司が常に正解を知っているように振る舞うと、部下は反対意見を出しにくくなります。「私も分からないので教えてほしい」と言えることが、発言しやすい空気につながります。 - 質問する
「どう思いますか」「懸念点はありますか」「他の考え方はありませんか」と、メンバーの意見を積極的に求めます。 - 反対意見を歓迎する
自分と違う意見が出たときに不機嫌になるのではなく、「別の視点を出してくれてありがとう」と受け止めます。 - ミスの報告に最初から怒らない
まず状況を把握し、問題を解決することを優先します。報告した瞬間に強く責めれば、次からミスが隠される可能性があります。 - メンバーの違いを理解する
全員が同じように考え、同じように発言するわけではありません。それぞれの価値観やコミュニケーションの特徴を理解することで、意見を引き出しやすくなります。
心理的安全性を高めるためにメンバーができること
心理的安全性は「上司が部下に与えるもの」だけではありません。
同僚同士の反応も心理的安全性に影響します。
- 人の発言を笑わない
勇気を出して質問した人や新しい案を出した人をからかえば、本人だけでなく、それを見ていた他のメンバーも発言しにくくなります。 - 最後まで話を聞く
自分と意見が違っても、途中で遮らず「なぜそう思うのか」を確認します。 - 助けを求められたら受け止める
相談されたときに「そんなこともできないの?」という反応をすれば、次から相談してもらえなくなります。 - 自分から助けを求める
自分自身が困っていることを伝えることで、「助けを求めてもよい」というチームの文化づくりに参加できます。 - 感謝や承認を言葉にする
良い提案や支援があったときに「ありがとう」「助かった」と伝えることで、望ましい行動を繰り返しやすくなります。
Googleの真似をするより、自分たちのチームを知る
プロジェクト・アリストテレスを学んだときに注意したいのが、「Googleがやっていることをそのまま導入すればいい」と考えないことです。
企業によって、人数、業種、仕事の進め方、社風、社員の価値観は異なります。
重要なのは、Googleの施策そのものをコピーすることではなく、「チームの成果には人間関係や働き方が影響する」という視点を自社に取り入れることです。
まず、自分たちのチームで何が起きているのかを確認します。
- 会議で全員が意見を言えているか
一部の人だけが発言し、他のメンバーがいつも黙っている状態になっていないでしょうか。 - 問題を早く報告できているか
トラブルが大きくなってから初めて上司に伝わることが続いていないでしょうか。 - 助けを求められているか
一人で仕事を抱え込み、限界になってから周囲が気づく状態になっていないでしょうか。 - 新しい提案が出ているか
「どうせ言っても採用されない」という空気が広がっていないでしょうか。 - 違う意見を歓迎できているか
上司と異なる意見を言った人が、扱いにくい社員として見られていないでしょうか。
心理的安全性を高める前に「良い関係性」をつくる
心理的安全性を高める方法として、1on1、アンケート、会議ルール、振り返りミーティングなど、さまざまな施策があります。
これらは有効な方法ですが、仕組みを導入しただけで本音を話せるようになるとは限りません。
たとえば、普段から上司を信用していない社員に「1on1だから何でも本音で話してください」と言っても、簡単には本音を話せないでしょう。
重要なのは、その前提となる「良い関係性」と「信頼関係」です。
自分と相手では価値観が違うことを知り、なぜ相手がそのように考えるのかを理解しようとすることが、心理的安全性の土台になります。
性格タイプ診断テストで「人の違い」を理解する
心理的安全性の作り方教室では、相互理解を深める方法として「楽しみながら、自分と相手の違いに気づける」性格タイプ診断テストを活用しています。
人は、自分の価値観を基準にして相手を見る傾向があります。
自分ならすぐ報告するのに、なぜこの人は報告しないのか。
自分なら結論から話してほしいのに、なぜこの人は細かい説明から始めるのか。
自分ならもっと積極的に意見を言うのに、なぜこの人は黙っているのか。
こうした違いを「能力」や「やる気」の問題だけで捉えると、人間関係が悪化することがあります。
自分と相手では大切にしているものや反応の仕方が違うと気づくことで、コミュニケーションの取り方を変えることができます。
「違うから分かり合えない」ではなく、「違うからこそ理解しようとする」。
その姿勢が良い関係性をつくり、心理的安全性の高いチームづくりにつながっていきます。
ご参考:性格タイプ診断テストの選び方
プロジェクト・アリストテレスを「知識」で終わらせない
Googleのプロジェクト・アリストテレスについて知ること自体が目的ではありません。
大切なのは、自分たちの職場に置き換えて考えることです。
「心理的安全性が重要らしい」と知るだけでは、社員の行動は変わりません。
自分たちのチームでは何が言いにくいのか。
どんなときに助けを求めにくいのか。
リーダーはメンバーの発言にどのような反応をしているのか。
メンバー同士はお互いの違いをどの程度理解しているのか。
こうした具体的な問いについて話し合い、明日から変える行動を決めることが重要です。
グループワークで自分たちのチームに置き換えて考える
心理的安全性の作り方教室の企業研修では、心理的安全性について講師の話を聞くだけではなく、グループワークを中心に進めます。
「心理的安全性が低いと何が起きるのか」「自分たちの職場では本当に意見を言えるのか」「心理的安全性を高めるには何が必要なのか」を、自分たち自身で考えます。
知識として正解を教えられるだけでは、人はなかなか行動を変えません。
自分たちで話し合い、「確かに私たちのチームでも起きている」「自分のこの行動を変えた方がいい」と気づくことが、実際の行動変容につながります。
よくある質問
- Googleのプロジェクト・アリストテレスとは何ですか?
-
Googleが「効果的なチームとはどのようなチームなのか」を調べるために行った社内研究です。チーム構成だけでなく、メンバー同士がどのように働いているのかというチームの力学も分析し、効果的なチームに重要な5つの要素を示しました。
- Googleが示した効果的なチームの5つの要素は何ですか?
-
「心理的安全性」「信頼性」「構造と明確さ」「仕事の意味」「インパクト」の5つです。Googleのre:Workでは、この中で心理的安全性が最初に挙げられています。
- Googleは心理的安全性が最も重要だとしたのですか?
-
Googleのプロジェクト・アリストテレスでは、効果的なチームに重要な5つの要素の中で心理的安全性が最初に挙げられています。ただし、心理的安全性だけあればよいという意味ではありません。信頼性、役割や目標の明確さ、仕事の意味、インパクトなども重要です。
- 優秀な人を集めれば強いチームになりますか?
-
優秀な人材を採用することは重要ですが、それだけで強いチームになるとは限りません。メンバーが安心して質問や提案をできるか、お互いに信頼して仕事を任せられるか、目標や役割が明確かなど、チームとしてどのように働いているかも重要です。
- プロジェクト・アリストテレスを日本企業でも活かせますか?
-
Googleと自社では組織環境が異なるため、Googleの方法をそのまま導入するのではなく、チームの関係性や働き方を見るという視点を活かすことをおすすめします。自分たちのチームで質問、相談、異論、失敗の共有などができているかを確認することから始められます。
- 心理的安全性が高ければ成果も必ず高くなりますか?
-
心理的安全性だけで成果が決まるわけではありません。仕事の能力、目標、役割、責任、戦略なども必要です。心理的安全性は、メンバーが持っている知識や能力をチームの中で発揮し、必要な情報を共有しやすくする重要な土台の一つと考えるとよいでしょう。
まとめ|Googleの研究から「誰がいるか」だけでなく「どう働くか」を考える
Googleのプロジェクト・アリストテレスは、効果的なチームを考えるうえで、「優秀な人を集めること」だけではなく、「その人たちがどのように一緒に働いているのか」に目を向ける重要性を示しました。
Googleが示した5つの要素は、心理的安全性、信頼性、構造と明確さ、仕事の意味、インパクトです。
その中でも心理的安全性は、メンバーが安心して質問、相談、提案、異論、失敗の共有などを行うための重要な土台になります。
ただし、Googleの方法をそのまま真似することが目的ではありません。
大切なのは、自分たちのチームで「何が言いにくいのか」「なぜ言いにくいのか」を確認し、より良い関係性と働き方をつくっていくことです。
まずは現在のチームの状態を確認し、小さな行動から改善を始めてみましょう。
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